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為替と金融政策の基本

どうもかつをです🐟

いきなりですが、あなたに質問があります。 昨日の夜、ニュースで流れていた「1ドル=〇〇円」という数字、覚えていますか?

「正直、あまり気にしていない」 「海外旅行に行くときくらいしか関係ないでしょ?」

もしそう思っている方も多いと思いますが、投資をするうえで「為替(かわせ)」と「経済の仕組み」は絶対知っておきたいところ。

スーパーで手に取る食品、毎日使うiPhone、電気代、ガソリン代……これら全ての価格は、実は「為替」と密接に繋がっています。「円安だから生活が苦しい」と嘆く側で終わるのか、それとも「円安の仕組みを知っているから、資産を守り、むしろ増やすことができる」側になるのか。

文章は長くなりますが、繰り返し見て頂いてゆっくり理解を深めて頂ければ幸いです。


もくじ

第1章:為替(かわせ)の基本世界

1-1. そもそも「為替」とは何か?

まず、「為替(かわせ)」という言葉の響きが少し難しいですよね。 歴史を紐解くと、現金を直接輸送するリスクを避けるために生まれた決済手段のことですが、私たちが投資の世界で扱うのは**「外国為替(Foreign Exchange)」**です。

シンプルに言えば、「ある国の通貨と、別の国の通貨を交換すること」。これだけです。

あなたがアメリカ旅行に行くとします。手元にある「一万円札(日本円)」をハワイのABCストアで出しても、「Oh, Sorry.」と言われて使えませんよね。だから、空港や銀行で「円」を渡して「ドル」を受け取ります。 この瞬間、あなたは立派な「外国為替取引」を行ったことになります。

  • 日本円を売って、米ドルを買った。

これを世界中の銀行、企業、そして投資家が、24時間休むことなく、天文学的な金額で行っているのが「外国為替市場」です。

1-2. 「円高」と「円安」の正体を暴く

ニュースで「今日は円安が進みました」「円高に振れました」と聞きますが、この**「円高・円安」**という言葉、直感的にわかりにくいと感じたことはありませんか?

特に初心者が混乱するのが、数字との関係です。

  • 1ドル = 100円

  • 1ドル = 150円

この2つを比べた時、100から150へと数字が大きくなっているのに、なぜ**「円安(価値が低い)」**と呼ぶのでしょうか?

ここで、思考の転換が必要です。数字の大きさではなく、**「円のパワー(購買力)」**に注目してください。

【わかりやすい例:アメリカのハンバーガーを買おう】

アメリカで1個「1ドル」のハンバーガーが売っているとします。

  • ケースA(1ドル=100円の時): あなたは100円出せば、1ドルのハンバーガーが買えます。

  • ケースB(1ドル=150円の時): あなたは150円出さないと、同じ1ドルのハンバーガーが買えません。

以前は100円で手に入ったものが、今は150円も出さないと手に入らない。 これは、ハンバーガーの価値が上がったという見方もできますが、相対的に見れば**「日本円の価値(パワー)が弱くなった」**ということになります。

日本円のパワーが安っぽくなったから、たくさん出さないと交換してもらえない。 だから、数字が増えると**「円安」**なのです。

逆に、1ドル=80円になれば、たった80円で1ドルが手に入るので、日本円のパワーが強い**「円高」**となります。

【私たちの生活への影響】

  • 円安の時(今の日本): 円が弱いので、海外からモノを買う時(輸入)にたくさんのお金を払わなければなりません。エネルギー資源や食料を輸入に頼る日本にとって、ガソリン代や電気代、食料品の値上げに直結します。一方で、トヨタのような輸出企業は、海外で稼いだドルを円に戻す時に金額が増えるので、業績が良くなりやすいです。

  • 円高の時: 海外のモノが安く買えます。海外旅行もリーズナブルに行けます。しかし、輸出企業にとっては、海外でモノが売れにくくなったり、利益が目減りしたりするため、日本の景気全体には悪影響が出ることもあります。

1-3. 為替レートはなぜ動く?

では、昨日は1ドル145円だったのに、今日は146円になる……といった「レートの変動」はなぜ起こるのでしょうか? 誰かが裏で操作しているのでしょうか?(一部の独裁国家などは別ですが)基本的には違います。

答えはシンプル。**「需要と供給のバランス」**です。

為替市場は、世界規模の「人気投票」のようなものです。

  • 「日本円が欲しい!もっと持ちたい!」と思う人が多ければ、円が買われて**「円高」**になります。

  • 「日本円なんていらない!売ってドルにしたい!」と思う人が多ければ、円が売られて**「円安」**になります。

では、世界中の投資家は何を基準に「欲しい」「いらない」を決めているのでしょうか? その最大の要因こそが、記事の後半で詳しく解説する**「金利」「景気」**です。お金は正直です。より安全で、より増える(金利が高い)場所へと、水が高いところから低いところへ流れるように移動していくのです。


第2章:FX(外国為替証拠金取引)の仕組み

さて、為替の基本がわかったところで、いよいよ実践編。「FX」について解説します。 多くの人が「FX=ギャンブル」と思っていますが、仕組みを正しく理解すれば、それは誤解であることがわかります。

2-1. FXと外貨預金の違い

「これからは円安だから、ドルを持っておこう」と考えた時、銀行の窓口に行って「外貨預金」をする人がいます。 しかし FXの方が有利な部分もあるので選択肢として知っておきましょう。

その最大の理由は**「手数料(コスト)」**です。

銀行で外貨預金をすると、日本円をドルに換える時に「1ドルあたり1円」、戻す時にまた「1円」、合計で往復2円程度の手数料がかかることが一般的です。(ネット銀行などはもっと安いですが)。 一方、FXの実質的な手数料(スプレッドと言います)は、米ドル/円の場合、「0.2銭(0.002円)」程度です。

銀行の手数料は、FXの数百倍〜数千倍も高いのです。 同じ「ドルを持つ」という行為なのに、場所が違うだけでこれだけコストが変わります。FXは、実は「両替手数料が極めて安い外貨取引ツール」なのです。

2-2. 証拠金取引とは

FXの正式名称は**「外国為替証拠金取引(がいこくかわせしょうこきんとりひき)」と言います。長いですね。 ここでのキーワードは「証拠金」**です。

現物取引(外貨両替)では、10万円分のドルを買うには10万円が必要です。当たり前ですよね。 しかしFXでは、FX会社に「証拠金(担保)」としてお金を預けることで、その何倍もの金額の取引をする権利が得られます。

イメージとしては、「この10万円を担保に預けるから、私の信用を信じて大きな取引をさせてくれ!」という契約を結ぶようなものです。この仕組みがあるからこそ、少額から投資を始めることができるのです。

2-3. レバレッジとは

FX最大の特徴であり、最大の武器、そして初心者が最も恐れるもの。それが**「レバレッジ(てこの原理)」**です。

日本の国内FX業者では、最大25倍までのレバレッジが認められています。 これがどういうことか、具体的な数字で見てみましょう。

手元に10万円あるとします。

  • レバレッジ1倍(外貨預金と同じ状態): 10万円分のドルしか買えません。1ドル100円なら、1,000ドルです。 もし1ドルが101円に上がったら(1円の円安)、利益は1,000円です。

  • レバレッジ25倍(フルレバレッジ): 10万円の証拠金で、250万円分のドルを買うことができます。 1ドル100円なら、25,000ドルです。 もし1ドルが101円に上がったら、利益は25,000円です。

見てください。元手は同じ10万円なのに、利益が25倍になりました。 これがレバレッジの威力です。資金効率が劇的に良くなります。

「すごい!じゃあ常に25倍でやればいいじゃん!」

……ここで一度、深呼吸をして落ち着いてください。 僕も良いことばかり言うつもりはありません。レバレッジは**「いい部分もあればリスクとなる部分もあります」**。

利益が25倍になるということは、予想が外れた時の「損失」も25倍になるということです。 上記の例で、もし1ドルが99円に下がってしまったら? レバレッジ1倍ならマイナス1,000円で済みますが、25倍ならマイナス25,000円。たった1円動いただけで、元手の4分の1が消し飛びます。

多くの初心者がFXで失敗するのは、このレバレッジのコントロールができず、いきなりフルスロットルで運転して事故を起こすからです。 初心者のうちは、**レバレッジ1〜3倍程度(外貨預金より少し効率が良い程度)**から始めるのが鉄則です。

2-4. スプレッド(実質的なコスト)

FXの取引画面を見ると、レートが2つ表示されています。

  • Bid(売値): あなたが売ることができる価格

  • Ask(買値): あなたが買うことができる価格

例えば、Bid 145.000 / Ask 145.003 と表示されているとします。 この差(0.003円=0.3銭)が**「スプレッド」**です。これがFX会社の手数料になります。

あなたが「買いたい!」と思ってボタンを押すと、145.003円で買うことになります。しかし、その瞬間に売りたいと思っても、145.000円でしか売れません。 つまり、エントリーした瞬間、スプレッド分だけ必ずマイナスからスタートする仕組みになっています。

スプレッドはFX会社によって違いますし、通貨ペアによっても違います。 「手数料無料!」と謳っているFX会社が多いですが、実はこのスプレッドが実質的な手数料なのです。取引回数が多ければ多いほど、この「見えないコスト」が利益を圧迫します。FX会社を選ぶ際は、このスプレッドが狭い(安い)会社を選ぶのが基本です。

2-5. 通貨ペアの特徴と選び方

世界には数え切れないほどの通貨がありますが、初心者が最初に触るべき通貨ペアは限られています。

  • 米ドル/円 (USD/JPY):【初心者推奨 ★★★★★】 王道中の王道です。世界の基軸通貨である「ドル」と、私たちの「円」。 ニュースなどの情報量が圧倒的に多く、スプレッドも最も狭い傾向にあります。値動きも比較的素直なことが多いため、まずはここからスタートしましょう。

  • ユーロ/米ドル (EUR/USD):【中級者向け ★★★★】 世界で最も取引量が多い通貨ペアです。一度トレンド(流行)が出ると、長く続きやすい特徴があります。ただ、日本人には「円」が絡まない計算になるため、損益の感覚を掴むのに少し慣れが必要です。

  • 新興国通貨(トルコリラ、メキシコペソなど):【注意が必要 ★★】 金利が非常に高く(高スワップポイント)、魅力的に見えます。しかし、インフレ率が高かったり政情不安があったりと、通貨の価値が暴落するリスク(カントリーリスク)を常に抱えています。「金利が高いから」という理由だけで安易に手を出すと、金利以上の為替差損で大火傷をすることがあります。


まとめとして今回は、

  1. 為替は「国のお金の交換」であり、レートは「需要と供給」で決まること。

  2. FXは「証拠金」を担保にした取引であり、手数料が安く効率的であること。

  3. レバレッジは強力な武器だが、使い方(倍率)を間違えると危険であること。

この3点をしっかりと押さえていただければ完璧です。

第3章:FXで利益を出す2つのエンジン

FXには、大きく分けて2つの「稼ぎ方」があります。 一つは値動きで稼ぐ方法、もう一つは金利差で稼ぐ方法です。

3-1. 為替差益(キャピタルゲイン)

これはシンプルです。「安く買って高く売る」。商売の基本ですね。

  • 買い(ロング)エントリー: 1ドル=100円で買い、120円になったら売る。差額の20円分が利益になります。 これは誰でも直感的にわかります。

しかし、FXの凄いところはここからです。 **「高く売って、安く買い戻す」ことで利益を出せるのです。これを「売り(ショート)エントリー」**と言います。

【「売りから入る」とはどういうことか?】

初心者が一番つまずくポイントです。「手元にドルを持っていないのに、どうやって売るの?」と思いますよね。 わかりやすく、あなたの友人が持っている「ロレックスの時計」で例えましょう。

  1. 借りて売る: あなたは今の相場が「高すぎる、これから下がる」と予想しました。そこで、友人からロレックスを借ります。そしてすぐに市場で100万円で売りました。(手元:現金100万円)

  2. 値下がりを待つ: 予想通り、ロレックスの価格が暴落して80万円になりました。

  3. 買い戻して返す: あなたは市場から80万円でロレックスを買い戻します。(手元:現金20万円が残る)

  4. 返却: 友人にロレックスを返します。

結果、手元には差額の20万円が残りました。 これが「空売り(ショート)」の仕組みです。FX会社がこの仲介を自動でやってくれていると考えてください。

  • 円安(上昇)局面: 買って利益を狙う

  • 円高(下落)局面: 売って利益を狙う

つまり、景気が良くても悪くても、円安でも円高でも、あらゆる局面がチャンスになるのがFXの強みなのです。

3-2. スワップポイント(インカムゲイン)

FXのもう一つの魅力、それが**「スワップポイント」です。 これは「2国間の金利差調整分」のことで、簡単に言えば「外貨を持っているだけで毎日もらえる利息」**のようなものです。

現在(執筆時点)、日本の政策金利は低い(約0.75%)ですが、アメリカの金利は高い(約3.75)です。

  • あなたが「ドルを買って(高金利)、円を売る(低金利)」ポジションを持つと、その金利差(約3%相当)を毎日受け取ることができます。

  • 1万ドル(約150万円分)持っているだけで、1日あたり120~130円程度がチャリンチャリンと口座に入ってきます。(※金額はFX会社によります)

「なーんだ、数百円か」と思いましたか? でもこれ、1ヶ月で約3,000円〜4,000円。1年なら4万円以上です。銀行に150万円預けていても、1年で数十円しか増えませんよね? この圧倒的な金利差を狙って、長期保有するスタイルも人気です。

【注意!逆は支払い】 逆に、「ドルを売って(高金利)、円を買う(低金利)」ポジションを持つと、金利差分を毎日支払うことになります(マイナススワップ)。 「これから円高になる!」と予想して売りエントリーをする場合は、毎日コストがかかることを忘れないでください。


第4章:FXのリスク管理

さて、ここからが本番です。 特に伝えたいこと。それは**「どうやって資金を守るか」**です。

4-1. よくある失敗

よくフォロワーさんが言っているあるある。それはこんなトレードです。

  • 「これだけ下がったんだから、もう戻るだろう」という根拠のない**「値ごろ感」**でエントリー。

  • 予想が外れて含み損が出ても、「損を確定させるのが嫌だ」というプライドで決済できず、放置(塩漬け)。

  • 挙句の果てに、神棚に手を合わせて**「頼む、戻ってくれ!」と祈る**(お祈りトレード)。

結果はどうなったか? ある朝起きたら、強制決済(ロスカット)のアラートメールが届いており、口座残高はほぼゼロになっていました。 原因は明白です。**「損切り」**ができなかったからです。

4-2. ロスカットと証拠金維持率

FXには、投資家が借金を背負わないように(預けたお金以上の損を出さないように)、ある一定の損失が出ると強制的に決済されるシステムがあります。これが**「ロスカット」**です。

ここで見るべき指標は**「証拠金維持率」**です。 トレード画面に必ず表示されています。

  • 証拠金維持率 = 有効証拠金 ÷ 必要証拠金 × 100

計算式は覚えなくていいですが、以下の基準を心に刻んでください。

  • 2,000%以上: 超安全運転

  • 500%〜1,000%: 安全圏

  • 300%以下: 黄色信号(少しの変動で危ない)

  • 100%(または50%): 危険(ロスカット執行)

多くのFX会社では、維持率が100%(または50%)を下回ると、強制的に全てのポジションが決済されます。 「あと少し待てばレートが戻ったのに!」と思っても後の祭りです。ロスカットは、あなたの資産を守る最後の砦ですが、発動した時点であなたの負けは確定します。

4-3. 損切り(ストップロス)の重要性

ロスカットは「強制退場」ですが、そうなる前に自分の意志で「負けを認めて傷が浅いうちに逃げる」こと。これを**「損切り(ストップロス)」**と言います。

初心者のうちは、以下のルールを絶対に守ってください。

【鉄の掟】エントリー注文と同時に、必ず「逆指値(ストップロス)」注文を入れること。

「1ドル145円で買う」と注文する時、同時に「もし144.5円まで下がったら自動で売って決済する」という予約を入れておくのです。 これを入れずにポジションを持つのは、命綱なしでバンジージャンプをするのと同じです。

人間は感情の生き物です。含み損の画面を見ると、「戻るかもしれない」という正常性バイアスが働き、ボタンを押せなくなります。だからこそ、感情が入る余地のない「事前の予約注文」で機械的に処理するのです。

**「損切りは、必要経費」**です。 10回勝負して、3回負けても、その負け額が小さければトータルで勝てます。 しかし、1回の負けで全財産を失うと、もう二度と相場の世界には戻れません。


コラム:為替市場には「巨人」がいる

ここまで、個人投資家としての戦い方(ミクロな視点)をお話ししました。 しかし、チャートの向こう側には、私たちの数百億倍、数兆倍の資金を動かす「巨人」たちが存在します。

彼らが「右」と言えば相場は右に行き、「左」と言えば左に行きます。 私たちがどれだけテクニカル分析をして線を引いても、彼らの一声で全てが無効化されることさえあります。

その巨人の名は、「中央銀行」

アメリカのFRB、ヨーロッパのECB、そして日本の日銀。このあとでは、この巨人たちが何を考えているのか、そして彼らの動きを読み解く「ファンダメンタルズ分析(金融政策)」について解説します。

「ニュースを見るのが難しそう」 そう思うかもしれませんが、安心してください。見るべきポイントはたったの3つです。 このあとの記事を読めば、あなたはテレビの経済ニュースを見て、「あ、次はドルが上がるな」と予想できるようになります。

第5章:相場を動かす「巨人」たち〜中央銀行の役割〜

為替相場には、私たち個人投資家がどれだけ束になっても敵わない「巨人」が存在します。 それが**「中央銀行」**です。

5-1. 金融政策とは「アクセルとブレーキ」

中央銀行(日本なら日本銀行、アメリカならFRB)の最大の使命は、**「物価の安定」「雇用の最大化」です。 そのために、彼らは「金利(政策金利)」**という道具を使って、景気のスピード調整を行います。

  • 景気が悪い時(不況): 皆がお金を使わないので、金利を下げます(金融緩和)。 銀行からお金を借りやすくして、企業に投資させ、消費者に家を買わせて、景気をふかします。これは車のアクセルです。

  • 景気が良すぎる時・物価が高い時(インフレ): 皆がお金を使いすぎてモノの値段が上がりすぎる(今の状態)ので、金利を上げます(金融引き締め)。 借金の金利を高くして、皆に無駄遣いをやめさせ、熱を冷まそうとします。これは車のブレーキです。

この「金利の上げ下げ」こそが、為替レートを動かす最大の燃料になります。

5-2. 世界の「Big 3」を押さえろ

世界にはたくさんの中央銀行がありますが、FXトレーダーが絶対に見るべきは以下の3つです。

  1. FRB(連邦準備制度理事会) - アメリカ

    • 【世界最強の巨人】 世界経済の心臓、米ドルの番人です。FRB議長(現在はパウエル氏)の発言一言で、世界中の株価と為替が乱高下します。彼らが「利上げ(金利を上げる)」と言えばドルが買われ、「利下げ」と言えばドルが売られます。

  2. ECB(欧州中央銀行) - ユーロ圏

    • ドイツやフランスなど、ユーロを使う国々の舵取り役です。FRBに次ぐ影響力を持ちます。

  3. 日本銀行(BOJ) - 日本

    • 私たちの生活に直結する日本の番人です。長らく「世界で唯一のマイナス金利政策(超金融緩和)」を行ってきましたが、近年はその修正が世界の注目を集めています。日銀が政策を変更すると、凄まじい勢いで円相場が動きます。

コラム:中央銀行が背負う「2つの使命」と「ジレンマ」

第5章の締めくくりとして、もう少しだけ深い話をしましょう。 FRBや日銀などのトップたちは、なぜ胃に穴が空くようなプレッシャーの中で金利を決めているのでしょうか?

それは、彼らが法律で定められた**「絶対的な使命」を背負っているからです。特にアメリカのFRBには、「デュアル・マンデート(2つの使命)」**と呼ばれる鉄の掟があります。

1. 物価の安定(Price Stability)

「モノの値段が急激に上がったり下がったりしないようにする」ことです。 具体的には、**「インフレ率 2%」**を目標にしている国がほとんどです。 「物価が全く上がらない(0%)」のが良いと思われがちですが、経済学的には「毎年少しずつ(2%くらい)値段が上がり、企業の売上が増え、給料も増える」のが最も健康的だとされています。 これを超えて物価が暴走(インフレ)すると、私たちの生活が壊れるため、必死に金利を上げて抑え込もうとします。

2. 雇用の最大化(Maximum Employment)

「働きたい人が、仕事に就ける状態にする」ことです。 失業者が街に溢れるのは経済にとって最悪の状態です。だから、景気が悪くなると金利を下げて企業を助け、雇用を守ろうとします。

【中央銀行を悩ませる「究極のジレンマ」】

ここで問題が起きます。実はこの2つの使命は、しばしば**ケンカ(トレードオフ)**の関係になるのです。

  • 物価を下げたい! → 金利を上げる(ブレーキ) → 企業の業績が悪化する → 失業者が増えてしまう(雇用が悪化)。

  • 雇用を増やしたい! → 金利を下げる(アクセル) → みんながお金を使いすぎる → 物価が暴騰してしまう(インフレ)。

「あちらを立てれば、こちらが立たず」。 中央銀行の総裁たちは、このシーソーのバランスを崩さないように、毎月発表されるデータを見て、0.25%単位の微調整を行っているのです。

だからこそ、

  • 「物価の安定」を測るための**「CPI(消費者物価指数)」**

  • 「雇用の最大化」を測るための**「雇用統計」**

この2つの経済指標が、FXにおいて**「最重要」**とされているのです。これらは単なる数字ではなく、中央銀行の通信簿そのものだからです。


第6章:経済指標を読み解く力

中央銀行の総裁たちは、サイコロを振って金利を決めているわけではありません。 彼らは**「経済指標(データ)」**を見て判断しています。 つまり、私たちもそのデータを見れば、「次は金利を上げそうだな(=ドル高になるな)」と予測できるのです。

6-1. 経済指標は「国の健康診断」

毎月発表される雇用統計や物価指数は、その国の健康状態を示すカルテです。 結果が良ければ「通貨を買おう」、悪ければ「売ろう」という判断材料になります。

6-2. 絶対に見るべき最重要指標3選

カレンダーには毎日たくさんの指標が載っていますが、初心者はまずこの3つだけマークしてください。

  1. 米国雇用統計(毎月第一金曜日):【重要度 MAX】

    • アメリカで「どれくらいの人が働いているか」「給料は増えたか」を発表します。

    • これが予想より良いと、「アメリカ経済は絶好調だ!金利は高いまま維持されるぞ!」と判断され、ドルが急騰します。逆なら急落します。発表の瞬間は数十銭〜1円以上動くこともある「お祭り」です。

  2. CPI(消費者物価指数):【重要度 MAX】

    • モノの値段(インフレ率)を表します。

    • 現在、世界中はインフレと戦っています。CPIが高い(物価が高い)と、中央銀行はインフレを止めるために「金利を上げざるを得ない」状況になります。つまり、**「CPIが高い=金利上昇期待=通貨高」**という連想ゲームが働きます。

  3. FOMC(連邦公開市場委員会):【重要度 MAX】

    • これは指標ではなく「会議」です。FRBのメンバーが集まり、最終的に「金利をどうするか」を発表する場です。年に8回開催されます。ここで決まったことが、向こう数ヶ月のトレンドを作ります。

6-3. 「結果」より「サプライズ」が大事

ここで一つ、プロの視点を伝授します。 経済指標で大事なのは、数字そのものではなく**「市場予想(コンセンサス)とのズレ」**です。

  • 例:

    • 市場予想:「今月の雇用は20万人増えるだろう」

    • 発表結果:「21万人増えた」

    • 反応:あまり動かない。(予想通りだから)

  • 例(サプライズ):

    • 市場予想:「20万人増えるだろう」

    • 発表結果:「35万人増えた!」

    • 反応:ドルが爆上げする。(予想外の良い結果だから)

ニュースサイトや証券会社のアプリには必ず「予想値」が載っています。それと「結果」を比べて、どれだけ乖離(サプライズ)があったかを見るのがコツです。


第7章:金融政策と為替の相関関係

さあ、すべての知識を繋げましょう。 なぜ、金融政策や指標の結果で、為替が動くのか。その根本原理はたった一つです。

7-1. お金は「金利が高い場所」に流れる

水は高いところから低いところへ流れますが、お金(投資資金)は「金利が低いところ」から「高いところ」へ流れます。

想像してください。

  • A銀行(日本): 定期預金の金利 0.1%

  • B銀行(米国): 定期預金の金利 5.0%

あなたは1億円持っていたら、どちらに預けますか? 当然、B銀行ですよね。 これを世界規模でやるとこうなります。 「金利の低い『円』を売って、金利の高い『ドル』を買う」

これが、近年の歴史的な「円安ドル高」を引き起こした根本的なメカニズムです。

7-2. 実践シミュレーション:ニュースを見てどう動くか?

では、実践練習です。あなたが朝起きて、以下のニュースを見たとします。どう考え、どうトレードしますか?

ニュース速報:「米国のCPI(物価指数)が予想を大きく上回り、インフレが再燃」

【思考プロセス】

  1. 事実: アメリカの物価がまだ上がっている。インフレが止まっていない。

  2. 連想: FRB(中央銀行)は、「まだ金利を下げられない。むしろ上げる必要があるかも」と考えるはずだ。

  3. 予測: ドルの金利が高い状態が続く。

  4. 結論: ドルの魅力が増すから、ドルが買われるだろう。

  5. アクション: 「ドル円」をロング(買い)エントリー!

逆に、「アメリカの失業率が悪化した(景気が悪い)」というニュースなら、「金利を下げるかも」→「ドルの魅力ダウン」→「ドル売り(円高)」となります。

この**「風が吹けば桶屋が儲かる」的な連想ゲーム**を瞬時にできるようになることが、脱初心者のゴールです。


読者からのQ&Aコーナー

最後に、私のSNSによく届く質問に答えておきます。

Q1. 資金はいくらから始めればいいですか? A. 数千円〜数万円で十分です。 最近のFX会社は「1,000通貨(約15万円分の取引)」や「1通貨」から取引できるところが増えています。最初は「お小遣い」の範囲で、ゲーム感覚で操作に慣れることから始めてください。

Q2. 会社員で忙しいのですが、できますか? A. むしろ会社員に向いています。 日本の夜(21時〜24時)は、アメリカ市場が開いていて最も活発に動く時間帯です。仕事から帰ってきて、夜のニュースを見ながら少しトレードする、というスタイルは非常に理にかなっています。また、第2回で解説した「指値・逆指値注文」を使えば、寝ている間に自動で売買も可能です。

Q3. テクニカル(チャート)とファンダメンタルズ(経済)、どっちが大事ですか? A. 両方です。車の「両輪」だと思ってください。 ファンダメンタルズで「大きな方向性(今は円安の流れだな)」を把握し、テクニカルで「具体的な売買のタイミング(今、少し下がったから押し目買いしよう)」を計る。これが最強の組み合わせです。

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